京都地方裁判所 平成7年(わ)1002号 判決 1996年2月08日
本籍
京都府宇治市宇治野神一番地の一九二
住居
右同所
会社役員
中島丸男
昭和六年一〇月二三日生
右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官眞田寿彦出席の上審理し、次のとおり判決する。
主文
被告人を懲役一年及び罰金二五〇〇万円に処する。
右罰金を完納することができないときは、金一〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。
訴訟費用は被告人の負担とする。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は、京都府綴喜郡宇治田原町大字郷之口小字向井六九番地の二において、「中島工務店」の屋号で型枠工事業を営んでいたものであるが、自己の所得を免れようと企て
第一 平成三年分の実際総所得金額が二億五七四五万三四五〇円であったにもかかわらず、架空外注工賃を計上するなどの方法により、その総所得金額のうち八五八四万九八三六円を秘匿した上、平成四年三月一六日、京都府宇治市大久保町井ノ尻六〇番地の三所在の所轄宇治税務署において、同税務署長に対し、総所得金額が一億七一六〇万三六一四円で、これに対する所得税額が八一四一万五〇〇円である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、平成三年分の正規の所得税額一億二四一三万四〇〇〇円との差額四二七二万三五〇〇円を免れ
第二 平成四年分の実際総所得金額が二億二五九四万八三五九円であったにもかかわらず、前同様の方法により、その総所得金額のうち七三七三万五二八八円を秘匿した上、平成五年三月一五日、前記宇治税務署において、同税務署長に対し、総所得金額が一億五二二一万三〇七一円で、これに対する所得税額が七一六七万五〇〇〇円である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、平成四年分の正規の所得税額一億八一八万六〇〇〇円との差額三六五一万一〇〇〇円を免れ
第三 平成五年分の実際総所得金額が一億六四八七万九八九三円であったにもかかわらず、前同様の方法により、その総所得金額のうち四九〇八万九〇二〇円を秘匿した上、平成六年三月一五日、前記宇治税務署において、同税務署長に対し、総所得金額が一億一五七九万八七三円で、これに対する所得税額が五三〇八万六五〇〇円である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、平成五年分の正規の所得税額七七五四万四〇〇〇円との差額二四四五万七五〇〇円を免れ
たものである。
(証拠の標目)(なお、括弧内の検番号は、記録中の証拠等関係カードに検察官請求分として記載されている証拠番号を示す。)
判示事実全部について
一 被告人の当公判廷における供述
一 被告人の検察官に対する各供述調書(二通、検63、64)及び大蔵事務官に対する各質問てん末書(九通、検54ないし62)
一 中島テミ子の検察官に対する供述調書(検51)及び大蔵事務官に対する各質問てん末書(一九通、検32ないし50)
一 大蔵事務官作成の各査察官調査書(一八通、検8ないし14、16ないし19、21ないし27)
一 前田義彦作成の確認書(検7)
一 検察事務官作成の電話聴取書(検29)
判示第一の事実について
一 大蔵事務官作成の証明書(検1)及び脱税額計算書(検4)
判示第二及び第三の事実について
一 大蔵事務官作成の査察官調査書(検15)
判示第二の事実について
一 大蔵事務官作成の証明書(検2)及び脱税額計算書(検5)
判示第三の事実について
一 大蔵事務官作成の証明書(検3)、脱税額計算書(検6)及び各査察官調査書(二通、検20、28)
(法令の適用)
被告人の判示第一ないし第三の各所為は、いずれも所得税法二三八条一項に該当するところ、各所定刑中いずれも懲役刑及び罰金刑を選択し、なお情状により同法二三八条二項をそれぞれ適用し、以上は平成七年法律第九一号附則二条一項本文により同法による改正前の刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第一の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により各罪の罰金額を合算し、その刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役一年及び罰金二五〇〇万円に処し、右罰金を完納することができないときは、右改正前の刑法一八条により金一〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとし、情状により右改正前の刑法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予することとし、訴訟費用については、刑事訴訟法一八一条一項本文により全部これを被告人に負担させることとする。
(量刑の理由)
本件は、型枠工事業を営んでいた被告人が不正の行為により所得税を免れたという事犯であるが、被告人において、これまで所得留保のための仮名預金口座を準備した上架空外注費を計上するなどの不正経理を日常的に行っていたものであり、犯情は悪質というべく、平成三年から平成五年までの三期合計二億円以上の所得を秘匿し、ほ脱に係る額が三期合計一億〇三六九万二〇〇〇円もの多額に上っており、国庫収入に多額の損害を与え、租税負担の均衡、公正を損なったものであって、その結果は重大といわなければならず、一般予防の見地からも厳しくその刑責が問われてしかるべき事案である。また、このような違法行為に至った動機について、被告人は、将来経営危機に陥った場合に備えるために本件不正行為に及んでしまったなどと供述するが、結局は自己の事業のためその営利を目論んで課税義務を免れようとしたもので、かかる自己中心的な動機に酌量の余地はないといわざるを得ないのであって、これらの犯情に照らせば、被告人の本件刑事責任は重いものがあるといわなければならない。
しかしながら、他方、被告人が、本件について既に修正申告を行い、所得税及び消費税の本税のほか、加算税、延滞税を完納していること、本件発覚後事業形態を会社組織として、専門家をその顧問税理士及び監査役として迎え、その適切な指導の下税務の適正処理を全うすべき体制をとるに至っていること、被告人が、現在本件を深く反省、悔悟し、その改悛の情も顕著であり、今後二度と本件のような過ちを繰り返さない旨堅く誓っていること、被告人には交通関係事犯の罰金前科が二犯あるにとどまりその他一般の前科前歴はなく、被告人が、本件を除いてはこれまで真面目に事業に取り組んできたものであること等被告人のために斟酌し得る事情も認められ、これらの情状及びその他諸般の事情を総合勘案したとき、被告人に対し、今回に限り懲役刑についてはその執行を猶予するのが相当であると思料して主文掲記のとおり量刑した次第である。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判官 森浩史)